投手の酷使度を測るセイバーメトリクス/鳥越規央の野球視角

2017年3月16日更新

WBC2017で日本は第1ラウンド、第2ラウンドを全勝で通過し、ドジャーズスタジアムで行われる決勝ラウンドに挑みます。F組は、プエルトリコ、ドミニカ、アメリカと言った強豪国がひしめき合い、どのチームが進出してきてもこれまで以上の苦戦を強いられるのは必至でしょう。ここまで日本は、チームOPS 0.933と打ち勝ってきました。失点の多さを打線でカバーしてきたイメージです。準決勝、決勝と勝ち抜くには、これまで以上に投手運用が重要になってくることは間違いありません。ご承知のように、WBCでは投手に投球制限がかけられています。

第1ラウンド  65球
第2ラウンド  80球
準決勝/決勝  95球

以上の球数を超えると、次打者に投球できなくなります。また50球を超えたら中4日、30球以上もしくは連投した場合は中1日空けなければならないというルールもあります。メジャーでは、「肩は消耗品」という認識があるため、このような投球制限を設けて大会運営にあたっています。中4日というローテーションで先発投手を回しながら、故障のリスクを避けるため「100球を目処に交代」という制限を設ける風潮が主流になってきました。

そんな中、投手の「酷使」を測る指標としてPAP (Pitcher abuse point) がBaseball Prospectus によって考案されました。先発した試合ごとに、(投球数 − 100)の3乗 (ただし100球以下の場合は0)、を計算し、それを累積したものがPAPです。1シーズンで10万を超えると故障の可能性が高くなり、20万を超えるといつ故障してもおかしくないと判断されているようです。

2003年、シカゴ・カブスのマーク・プライアーは30試合に登板、18勝6敗の大活躍を見せたのですが、このシーズンのPAPがなんと231123。翌年は最初の2ヶ月、肘痛とアキレス腱痛の影響で故障者リスト入りし、6月からの復帰となりましたが、WHIPは前年の1.10から1.35に悪化。2005年は11勝するもWHIP1.21、PAPも102159と10万超え。2006年以降はメジャーでまともに登板する機会を得られなくなりました。そういった教訓があるのでしょうか、近年のメジャーリーグでは10万を超えることは稀となっています。

2016年MLB PAP ランキング

では日本のNPBではどうでしょうか。PAPが10万を超える投手は以下の通りです。



パ・リーグでは岸、則本、セ・リーグでは藤浪が50万を超えており、「20万超えでいつ故障してもおかしくない」領域をはるかに上回っています。では岸のPAPと故障遍歴を見てみましょう。

2013年 PAP 181700
2014年 PAP 347015  肩痛
2015年 PAP 208735  背筋痛、脇腹の肉離れ
2016年 PAP 580587  右内転筋痛

途中戦線離脱はするものの、シーズンを通じて先発を務めてはいます。また肩や肘に大きな故障が生じているわけではないようです。則本と藤浪のPAPですが、

則本
2013年 PAP 161381
2014年 PAP 384158
2015年 PAP 264275
2016年 PAP 502749

藤浪
2013年 PAP 45710
2014年 PAP 348818
2015年 PAP 684410
2016年 PAP 569740

とシーズンを重ねるたびに増加の傾向にあります。藤浪は2年連続で50万を超えており、投げ過ぎの影響を危惧する声も聞かれています。ですので、昨年7月8日の広島戦において3回までに5点を失い、敗色濃厚の試合で8回まで登板し161球を投じさせた首脳陣の采配には疑問が残ります。ただ今のところ、2人に大きな故障の情報は入っていません。

田中将大は2012年のPAPが206232、2013年が214666と2年連続で20万を超えています。そしてその翌年、ヤンキースに移籍して16試合連続でQSを達成し、前半戦だけで18試合に登板、12勝4敗の大活躍。PAPもこの時点では17922だったのですが、右肘靭帯の部分断裂が発覚、全治6週間の診断を受けました。

またダルビッシュは、NPBラストイヤーの2011年のPAPは452246でしたが、2012年、2013年は八面六臂の活躍でレンジャーズに大貢献しています。なお両年のPAPは82798、98298と10万を超えていません。しかし2014年シーズンの途中で右肘の炎症のため故障者リスト入りしてしまいます。

田中、ダルビッシュの故障を日本時代の投げ過ぎの影響とする論調もあるようですが、ダルビッシュは中4日のローテーションの方に原因があるのではという持論です。

PAPは中6日ローテのNPBで適用できるのかという議論はもちろんありますし、もっと言えば故障の原因は球数の多さよりも、体に負担のかかる投げ方の方に問題があるとの見方が多勢です。メジャーの場合でも、中4日ローテでなく、中5日、中6日にしたい首脳陣もあるようですが、先発投手をもう1、2枚雇うための経営的問題もあり、導入はなかなか難しいようです。

今の時点ではPAPの計測よりも「球数よりも正しいフォームで投げること」の徹底、これが怪我を予防するために大事なことではないでしょうか。

★spモード有料版では「球数、連投にまつわる記録集」を後日掲載予定です。

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