セイバーメトリクス的2016MVP/鳥越規央の野球視角

2016年12月12日更新

2016年シーズンのMVPはパ・リーグ大谷翔平、セ・リーグ新井貴浩となりました。MVPは全国の新聞、通信、放送各社に所属する5年以上プロ野球の取材に携わる記者の皆さんが、投票用紙にMVPにふさわしい選手を1位、2位、3位と順位をつけて投票し、1位5点、2位3点、3位1点として集計、合計点が最も大きい選手に与えられます。パ・リーグは大谷が1位票をほぼ満票で獲得しましたが、セ・リーグに関しては以下のような投票結果になりました。



新井の1位票が120なので、これだけで600ポイントとなり、2位の菊池の総ポイントを大きく上回っています。以前、毎日新聞WEB版にて、広島カープ優勝に関するインタビューを受けた際、「記者投票による選出であれば、新井貴弘が有力でしょう。2000本安打や300本塁打も達成しているという印象面でも強いでしょうし、広島カープを優勝させた原動力としての影響力が評価されるのでは」とコメントしました。

(毎日新聞 http://mainichi.jp/articles/20160911/mog/00m/050/001000c)

実際、そのような結果になりましたし、チームにどれだけの勝利を上乗せできたかを示すWAR(Win Above Replacement)において新井は年々上昇していました。

新井貴浩のWARの変遷
2014 0.2
2015 1.8
2016 2.5

(データ引用: 1.02 ESSENCE of BASEBALL
http://1point02.jp/op/index.aspx)

それでは、記者投票という印象の側面ではなく、セイバーメトリクスの指標から見て、最もvaluable = 価値のあるプレイをした選手は誰だったと言えるのでしょうか。これを2つの指標から探ってみましょう。先ほども述べましたWARという指標は「その選手がリプレイスメントレベル(代替可能選手)に比べてどれだけの勝率数を上積みできたか」を示すものです。今季のWARランキングは以下のようになっています。


(データ引用: 1.02 ESSENCE of BASEBALL
http://1point02.jp/op/index.aspx)

WARの観点からしてもパ・リーグの大谷の数値がずば抜けていることが分かります。なおWARは打撃指標、投手指標とで別に算出しますが、大谷の打撃指標によるWARは5.8、投手指標によるWARは4.6です。セ・リーグでは、坂本が9.6でトップの数値を残しています。今年は首位打者を獲得、本塁打23、OPS 0.988、RC27 9.40と巨人において孤軍奮闘となった打撃部門もさることながら、守備でも大きく貢献していることがわかります。広島カープで最もWARが大きいのは鈴木誠也でした。打率2位、本塁打29本、OPSは1.015と一流の証である1越えを達成、守備範囲も広く、攻守での貢献で優勝に大きく寄与したメンバーの一人と言えるでしょう。また鈴木誠也とほぼ同等なWARであるのが菊池涼介です。こちらも攻守による貢献が数値として表れました。

では、MVPの新井貴浩のWARを見てみましょう。数値は2.5となり、セ・リーグでは30位となります。1年ローテーションを守り、10勝8敗と2桁勝利もあげた黒田博樹のWARが3.5なのでそれよりも低い値になるのです。この要因の一つとして考えられるのは、新井の出場機会です。出場試合は132ですが、スタメン出場は115。フル出場も多くないため数値が抑えられるのです。逆に言えば出場した時に、印象に残る濃密な活躍をしたとも言えるのではないでしょうか。

さて、印象的な活躍と言えば、バッターであればサヨナラ本塁打や、逆転打を放つなどのプレイ、投手であれば無死満塁を無失点で切り抜けるなどのピンチ脱出、守備ならスーパーファインプレイといったものが挙げられるでしょう。なお今季のサヨナラ本塁打は15本出ています。


(データ引用:NPB公式サイト「2016年シーズンの記録の回顧(打撃記録)」
http://npb.jp/history/2016/review_rec_b.html)

特に印象的だったのは、鈴木誠也がオリックスから2試合連続でサヨナラ本塁打を放ったことで、これは今年の新語・流行語大賞にも選ばれた「神ってる」の語源とも言えるプレイです。さて、こういったプレイがどれだけチームの勝利に貢献できたかを示す指標があります。今年の4月のコラムでも紹介したWPA (Win Probability Added) です。この指標で鈴木誠也の「神ってる」度合いを数値化してみましょう。

6月17日
12回裏同点無死2塁
勝利確率0.784 → サヨナラ2ラン +0.216

6月18日
9回裏2点ビハインド 1死1、3塁
勝利確率 0.200 → サヨナラ3ラン +0.800

この2試合のサヨナラホームランだけで1.016の勝利確率を上昇させたことになります。もちろん、チャンスで打てなければマイナス評価になるのですが、これらの蓄積がシーズンのWPAとなります。

2016年のWPAのランキングは以下の通りです。

セ・リーグ

パ・リーグ

(データ引用: 1.02 ESSENCE of BASEBALL
http://1point02.jp/op/index.aspx)

本塁打44本の筒香のWPAが突出しています。それだけ効果的な攻撃を行えていたことの証左になります。WARとWPAの2つの指標から判断すると、パ・リーグは大谷翔平で文句なし。セ・リーグは鈴木誠也がセイバーメトリクス的にMVPにふさわしい活躍をしたとして、勝手ながら表彰いたします。

★spモード有料版では「セイバーメトリクス的最優秀日本人メジャーリーガー」を後日掲載予定です。